オンラインゲーム依存傾向と抑うつの関係

オンラインゲーム依存傾向と抑うつの関係
Relationships between the on-line games dependency and depression
平井 大祐,   葛西 真記子
Daisuke HIRAI,  Makiko KASAI
鳴門教育大学
Naruto University of Education

要約:本研究の目的は近年のオンラインゲームの普及によるオンラインゲーム依存と抑うつの関連を見ることである。したがって、インターネット上のホームページにおいて、オンラインゲーム依存傾向と抑うつの関連について質問紙調査を行い、調査期間中に993名の回答を得た(有効回答数918名)。その結果、オンラインゲームの使用歴と依存傾向には関連が見られず、使用時間が多いほど依存傾向が高いことが明らかになった。また、オンラインゲーム依存傾向が自覚型の場合無力感という側面で、没頭型の場合意欲の減退と言う側面において、抑うつ傾向を高めるひとつの要因と言えることが明らかとなった。
キーワード:オンラインゲーム依存,オンラインゲーム,抑うつ

1.研究の目的
総務省がこのほど発表した通信利用動向調査(2003)によると、国内の2002年末のインターネット利用者は前年末に比べ1349万人増の6942万人で、アメリカに次いで世界2位、世帯普及率は前年から20.9%増の81.4%となっていると発表された。こうしたインターネットの普及と、ゲームとインターネットが融合したオンラインゲームの登場で、ゲームのユーザーに与える影響についても楽観視できなくなってきた。
牟田(教育新聞,2003)は、オンラインゲームがひきこもりの状態を長引かせる最大の要因の一つとして注目されつつあると危険性を訴えている。筆者がこの問題に着目したきっかけも、オンラインゲームを始めてすぐに不適応状態に陥り、家庭内暴力や部屋の破壊行為を行った不登校生徒への訪問面接であった。
オンラインゲームは離れた不特定多数のユーザーがインターネットを介して、ひとつのゲームをリアルタイムに遊ぶもので、さまざまなジャンルが生まれつつあるが、中でもMMORPG(多人数同時参加型・オンライン・ロールプレイングゲーム)というジャンルは、終わりのなさ、自由度の高さ等の点で依存しやすい傾向にあると言え、依存傾向についての先行研究において神経症的傾向との相関が見られた(Yee,2002)。
しかし、国内におけるオンラインゲーム依存に関する研究報告や実態調査はなされていないのが現状である。各国の状況と国内のインターネット普及率からして、ここ数年の間にオンラインゲーム依存者が国内でも増加すると考えられる。
そこで本研究では、Yee(2002)の研究結果でも明らかとなった神経症的傾向の中の、特に抑うつ傾向に焦点を当て、オンラインゲーム依存との関連を明らかにすることを目的とする。

2.研究の対象と方法
インターネット上のオンラインゲーム関連ホームページ内の掲示板にて、ホームページにおける質問紙調査を依頼し、調査期間中(2003年7月上旬)に993人の回答を得た(有効回答数918名)。
質問紙は、フェイスシート(オンラインゲームの使用歴と使用時間を含む)、選択回答(37項目、5件法)、自由記述(1項目)の3部構成。選択回答では、全20項目からなる「オンラインゲーム依存尺度(Young(1998)のインターネット依存尺度をオンラインゲーム依存用に改訂)」と堀野ら(1991)が作成した17項目からなる「抑うつ測定尺度(筆者改訂)」を用いた。
得られたデータをもとに、?尺度の項目分析、?オンラインゲーム使用歴・使用時間とオンラインゲーム依存との関連の分析、?オンラインゲーム依存尺度得点と抑うつとの関連の分析(重回帰分析)、?自由記述の分析を行った。

3.結果
(1)尺度の項目分析

・オンラインゲーム依存尺度の検討
オンラインゲーム依存尺度の検討をするため、天井‐フロア効果、G‐P分析、また各項目の方向性を確かめるため、因子分析(主因子法・プロマックス回転)を行った。その結果、9項目が削除され11項目となり、11項目で5因子構造を示すことが明らかとなった。各因子の項目数は「自覚型依存因子」6項目、「没頭型因子」5項目で、全11項目である。各下位尺度項目得点の合計と全体の合計(オンラインゲーム依存尺度得点)を分析に用いた。
・抑うつ測定尺度の検討
抑うつ測定尺度の検討を上記と同様に行った。その結果、7項目が削除され10項目になり、2因子構造が示された。各因子の項目数は「無力感因子」6項目、「意欲の減退因子」4項目で、全10項目である。各下位尺度項目得点の合計と全体の合計(抑うつ測定尺度得点)を分析に用いた。

(2)オンラインゲーム使用歴・使用時間とオンラインゲーム依存との関連の分析

フェイスシートで得られたオンラインゲームの使用歴と使用時間それぞれについて、オンラインゲーム依存尺度得点との相関を見たところ、オンラインゲームの使用歴については、有意な相関が見られなかった。使用時間については、自覚型依存がr=.263、没頭型依存がr=.261で有意(p<.001)であり、正の相関を示した。

(3)重回帰分析

自覚型依存尺度得点、没頭型依存尺度得点を説明変数、無力感尺度、意欲の減退尺度得点をそれぞれ被説明変数として、重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。 その結果全体では、無力感尺度得点を被説明変数とした場合、重相関係数および標準偏回帰係数(以下βとする)は、有意(p<.001)であった。関連性を調べた結果、重相関係数はr=.161(r2=.026,F=24.449,p<.001)で、自覚型依存尺度のみ有意で、正の寄与を示した。 意欲の減退尺度得点を被説明変数とした場合、重相関係数および標準偏回帰係数(以下βとする)は、有意(p<.001)であった。関連性を調べた結果、重相関係数はr=.283(r2=.080,F=39.908,p<.001)で、自覚型依存尺度、没頭型依存尺度ともに正の寄与を示した。

(4)自由記述の分析

オンラインゲームの日常生活への影響を幅広く質問したところ482名からの回答を得た。オンラインゲーム依存尺度得点上位群で睡眠不足、生活リズムの乱れ、不登校、留年、学力低下、仕事の能率低下、周囲と疎遠になる、運動不足、食生活の乱れ、ストレスが溜まる、肩こり腰痛、現実との区別が曖昧になるなどが見られ、下位群では自制できている、コミュニケーションツールとなる、対人関係スキルの向上、世代間伝達、視野が広がるなどが見られた。

4.考察
結果より、オンラインゲームの使用歴の長さと依存傾向には関連がないが、使用時間が多いほど依存傾向が高いことが明らかになった。思っていたよりも長時間使用してしまうことで、他のことをする時間が圧迫され、実生活に影響を与える可能性があると考えられる。 また、オンラインゲーム依存傾向が自覚型の場合、無力感という側面で、没頭型の場合、意欲の減退と言う側面において、抑うつ傾向を高めるひとつの要因と言えることが明らかとなった。 さらに、自由記述からは、プラス面、マイナス面ともに多様な影響があることが示された。よって、オンラインゲームを悪いものとするのではなく、どうすればオンラインゲームと上手く付き合っていけるのかという視点で、オンラインゲーム依存に関する今後の研究を進め、対処の仕方や支援について検討し考察することが必要と言える。