オンラインゲームの使用が使用者に与える影響

オンラインゲームの使用が使用者に与える影響
The effects of on-line game on on-line game users
平井 大祐*1,     葛西 真記子*2
Daisuke HIRAI,     Makiko KASAI
徳島県精神保健福祉センター*1
Tokushima mental health welfare center
鳴門教育大学*2
Naruto University of Education

要約:本研究の目的は、オンラインゲームの使用が使用者に与える影響を明らかにすることである。そのため,インターネット上のホームページにおいて,オンラインゲームについて調査を行い,自由記述形式で回答を求めた結果,調査期間中に451名からの回答を得た。KJ法により詳細にカテゴリー分類した結果,特に,ポジティブな影響として「交流」「気分転換」「交友関係の増加」,ネガティブな影響として「睡眠不足」「身体」「学業」「人間関係の悪化」への影響があることが明らかとなった。
キーワード:オンラインゲーム,心理的影響,身体的影響,対人関係,自由記述,

1.研究の目的
オンラインゲームの普及は,私たちの生活にどのような影響を及ぼしているのか? 牟田(教育新聞,2003)は,オンラインゲームがひきこもりの状態を長引かせる最大の要因の一つとして注目されつつあると危険性を訴えている。また,オンラインゲームへの依存傾向についての先行研究において神経症的傾向との相関が見られたとの報告もあり(Yee,2002),筆者も抑うつ傾向との関連でオンラインゲーム依存について着目している(平井,2003)。
こういったユーザーに与えるネガティブな影響が楽観視できなくなってきている中、エヌ・シー・ジャパン,ガマニアデジタルエンタテインメント,ガンホー・オンライン・エンターテイメント,ゲームオン,NHN Japanのオンラインゲーム5社は今年4月16日,ユーザーがオンラインゲームを遊ぶ際に留意してもらう「健康ガイドライン」の内容について合意したことを発表した。この「健康ガイドラインは」オンライゲームへの正しい認知の啓蒙と,市場の健全な成長の促進を目指すという点で評価でき、さらなる内容の検討と多くのゲーム会社への普及が望まれる。
しかし、国内におけるオンラインゲームが使用者に与える影響に関する研究報告や実態調査はほとんどなされていないのが現状である。国内のオンラインゲームユーザーは今後さらに増加すると考えられ,その日常生活に与える影響を整理しておくことが、使用者の心身の健康のみ成らず、オンラインゲーム市場の健全な発展にも寄与すると考えられる。 そこで本研究では、オンラインゲーム使用者における,オンラインゲームが自らに与えている影響の捉え方を明らかにすることを目的とする。

2.研究の対象と方法
インターネット上のオンラインゲーム関連ホームページ内の掲示板にて、インターネット上のホームページにおける調査を依頼し、調査期間中(2003年7月上旬)に993人の回答を得た(有効回答数932名)。有効回答のうち,451人から自由記述への回答があった。
質問項目は,ポジティブ,ネガティブ両サイドからの回答ができるよう「ご自分でオンラインゲームが日常生活に影響を与えていると感じられていることがあればご自由にお書き下さい」という自由記述(1項目)とし,得られたデータをもとに分析を行った。 記述の内容として,使用者自身が受けている影響についての記述と,使用者全体が受けている影響についての意見の記述に分かれた。よって,事実として受け止められる前者のみを分析に用いることとした。

3.結果と考察
(1)結果の処理について
自由記述によって得られた回答を,ポジティブな影響とネガティブな影響に分類し、さらにそれぞれについて、KJ法によりカテゴリー分類した。このカテゴリー分類の妥当性を確かめるために,筆者と同様に臨床心理学を学ぶ第三者(2名)が検証を行い,それぞれ83%,84.5%の高い一致率を得た。検証方法は全回答から50回答を無作為抽出し,第三者がその回答に最も適するカテゴリーを選び,筆者との一致率[一致率=一致/(一致+不一致)×100]を算出するという方法をとった。

(2)ポジティブな影響について
ポジティブな影響についての229回答(複数回答を含む)について,カテゴリー別に分類した。

結果より,オンラインゲームから受けるポジティブな影響としては,大きく「交流」(以下の「 」内はカテゴリー名)と「気分転換」に分かれていると考えられる。「交流」については,オンラインゲームが「コミュニケーションツール」としての機能も持ち合わせるために,情報や意見の交換が行われると言える。「交流」をすることで,「交友関係の増加」や人と人との「ふれあい」が生まれる。また,「交流」は様々な「技術・知識」の習得につながり,中でも「交友関係の増加」は日常生活を楽しいものとする「活力源」となり,人との「ふれあい」は対人関係を苦手とする使用者にとっては「対人関係の練習」となることが考えられる。
一方,「気分転換」については,現実生活での汚点や後悔を白紙に戻しオンラインゲームの世界で「やり直し」ができることが「気分転換」につながっていると考えられる。オンラインゲームによって気晴らしをしたり,楽しさを感じたりする「気分転換」の中には,日常生活を楽しいものとする「活力源」としての影響も含まれるであろう。また,オンラインゲームで「気分転換」をしたいために,やるべきことを早く済ませようとしたり,オンラインゲームを始めたことで「技術・知識」を習得し始めたりしているとも考えられ,オンラインゲームが何かの「きっかけ」となっていることも示唆された。 他のカテゴリーとの関連性は見出せなかったが,何本もゲームソフトを購入していた使用者にとってはゲーム代の「節約」になることもポジティブな影響の一つと考えられる。

(3)ネガティブな影響について
ネガティブな影響についての424回答(複数回答を含む)について,カテゴリー別に分類した。

ネガティブな影響としては,オンラインゲーム上の「人間関係の束縛」などの要因によって,やるべき物事を「後回し」にすることが,「生活リズム」「学業」「仕事」の3つの主要な影響と関連していると考えられる。まず,「生活リズム」については,「時間感覚の麻痺」により,オンラインゲームをする時間が生活の中心となることで「生活リズム」が狂うと考えられる。この「生活リズム」の乱れの中には「睡眠不足」や「食事」が不規則になること,外出の機会が減る「閉じこもり」が含まれるため,疲労の蓄積による体調不良などの「身体」への悪影響が引き起こされると考えられる。次に,「学業」「仕事」については,勉強や業務を「後回し」にしたり,「睡眠不足」により,能率の低下や遅刻などを招いたりすることで,「学業」や「仕事」にネガティブな影響を与えていると考えられる。さらに「学業」や「仕事」を後回ししたり,オンラインゲームをするために外出の機会が減る「閉じこもり」が起こったりする中で,「現実逃避」をし始め,家族や恋人など現実場面での「人間関係の悪化」を招いていると考えられる。また,「現実逃避」をすることで,「現実感覚が薄れる」とも考えられ,その結果として,ゲーム上での「言葉づかい」を現実場面でもしてしまったり,ゲームをしていない時にもゲームのことばかり考えてしまったりするといった「思考の偏り」が生じると考えられる。さらに,「現実感覚が薄れ」たり,「人間関係の悪化」が生じることで,イライラしたり,感情の起伏が激しくなったりするといった「精神面」への悪影響が起こると考えられる。
これらの中でも,「身体」への影響,「人間関係の悪化」,「精神面」への悪影響は辞職,留年,退学を含む「不登校・ひきこもり」の誘因となっていると考えられるのである。  また,「後回し」に関連するカテゴリーとして,いままで持っていた趣味が,オンラインゲームをすることで,「後回し」になる「趣味の減少」も見られた。 他のカテゴリーとの関連性は見出せなかったが,文字でのコミュニケーションに不安を感じる「コミュニケーション不安」になることや,ゲームに没頭することで世間知らずになるといった「情報不足」,さらに電気代や課金制ゲームの支払いによる「出費」もネガティブな影響の一つと考えられる。

4.まとめ
本研究から,ポジティブな影響,ネガティブな影響ともにオンラインゲームの使用は,使用者に対して多様な影響を及ぼしていることが示された。日々の臨床の中でも、オンラインゲームという言葉がクライエントから語られることが増えてきているように感じる。オンラインゲームを社会生活を健全に過ごすための活力剤に例えるとすれば、本研究におけるポジティブな影響はその主作用であり、ネガティブな影響は副作用と言えるだろう。オンラインゲームの主作用と副作用を明確に表示することは、使用者の安心感につながる。
したがって、それぞれの作用についてより実証的な研究を進めることにより、副作用の少ないオンラインゲームや、その遊び方を明らかにしていくことが必要と言えるのである。

<引用・参考文献>

平井大祐・葛西真記子 2003 オンラインゲーム依存傾向と抑うつの関係 ゲーム学会第2回大会発表論文集.牟田武生 2003 “ネット廃人”がひきこもりに 教育新聞.Yee,N.2002 ゲーマーの間で蔓延する“ヘロインゲーム”中毒 ZDNet 米国記事.