オンラインゲームへの依存傾向が引き起こす心理臨床的課題

オンラインゲームへの依存傾向が引き起こす心理臨床的課題

平井大祐(徳島県精神保健福祉センター) 葛西真記子(鳴門教育大学)

1.研究の目的
近年,インターネットの普及と,ゲームとインターネットが融合したオンラインゲームの登場で,ゲームの使用者に与える影響についても楽観視できなくなくなってきた。  離れた不特定多数のユーザーがインターネットを介して,ひとつのゲームをリアルタイムに遊ぶオンラインゲームは,終わりのなさ,自由度の高さ等の点で依存しやすい傾向にあり,ひきこもりの状態を長引かせる最大の要因の一つとして注目されつつある。筆者がこの問題に着目したきっかけも,オンラインゲームを始めてすぐに不適応状態に陥り,家庭内暴力や部屋の破壊行為を行った不登校生徒への訪問面接であった。
各国の状況と国内のインターネットの普及率からして,ここ数年の間にオンラインゲーム依存者が国内でも増加すると考えられる。
そこで本研究では,オンラインゲームへの依存の特徴と,その程度を明らかにし,特に不登校・ひきこもりを中心に,オンラインゲーム依存に対する有効な支援と,その予防について検討することを目的とし,以下の仮説を立てた。
Type A行動パターンをもつオンラインゲーム使用者は,その性格行動特性である競争性や精力的な達成活動,慢性的な時間的切迫感,攻撃性と敵意などにより,不登校・ひきこもりになることは少ないと言える。しかし,Type A行動パターンをもつ者が,オンラインゲームに過度な依存を起こすことで,本来関連性が少ないはずの潜在的な不登校・ひきこもりの心性を持つ。

2.研究の対象と方法
ホームページにおけるアンケート調査として,1438名にYoung(1998)が作成し,小田嶋(1998)によって翻訳された,インターネット依存尺度を参考に筆者が改訂した,オンラインゲーム依存尺度と,前田(1985)のA型傾向判別表,さらに寺田ら(2002)が作成した問題兆候尺度を参考に筆者が修正を加えた潜在的不登校・ひきこもり尺度を実施した。  調査は2003年7月下旬に実施した。

3.結果
それぞれの尺度について因子分析を行ったところ,オンラインゲーム依存尺度では「自覚型依存」因子と「没頭型依存」因子の2因子が抽出された。A型傾向判別表では「攻撃性」因子,「熱中性」因子,「時間的切迫感」因子の3因子が抽出された。潜在的不登校・ひきこもり尺度では「自己否定」因子,「内閉」因子,「対人萎縮」因子の3因子が抽出された。  次に,Type A行動パターンと潜在的不登校・ひきこもりの因果関係を見るため,多重指標モデルを作成し,共分散構造分析を行った。その結果,Type A行動パターン傾向から潜在的不登校・ひきこもり傾向へのパス係数(-.55)は有意であった。また,間にオンラインゲーム依存傾向を入れた場合,Type A行動パターン傾向からオンラインゲーム依存傾向へのパス係数(.33),オンラインゲーム依存傾向から潜在的不登校・ひきこもり傾向のパス係数(.36)共に有意であった。
この結果を詳細に見ていくために,それぞれの尺度間において重回帰分析を行った。その結果,自覚型および没頭型依存尺度得点を被説明変数とした場合,攻撃性尺度において有意で,正の寄与を示した。また,内閉尺度得点および対人萎縮尺度得点を被説明変数とした場合,没頭型尺度において有意で,正の寄与を示した。

4.考察
結果より,Type A行動パターンと潜在的不登校・ひきこもりという負の相関が見られる関係の間に依存が起こることで,正の相関となることが明らかとなった。これにより,仮説が立証されたといえる。技術革新と人間の適応能力におけるスピードの差,ゆえに起こる軋轢を解消するために,臨床心理士の力が今後さらに求められるであろう。